中川晃教さん 特別インタビュー 日本人アーティストが京劇界へ刻んだ新たな軌跡


2001年にシンガーソングライターとして鮮烈なデビューを飾り、その後俳優としてもミュージカルの分野で数々の栄誉ある賞を受賞するなど、常に演劇界の第一線で活躍されているアーティスト、中川晃教さん。最近ではテレビドラマにもご出演され、ご自身の活動の幅をさらに広げられています。この度、新潮劇院(※1)の京劇公演”孫悟空VS孫悟空(※2)”で三蔵法師という大役に抜擢され、大成功を納められました。そんな中川さんに、京劇を通して感じられた中国文化の魅力や、共演した京劇俳優の方々との絆について熱く語っていただきました!



心連心

これまで音楽を通して様々な活動をされてこられた中川さんですが、以前から中国や中国文化に触れる機会はあったのでしょうか?


中川

2年前に上海に10日間ほど滞在したのですが、すごくパワーを感じたのを覚えています。特に近代芸術の分野が面白いと思いましたね。日本がやろうとしても出来ない部分、中国でしか 出来ない底力を強く感じたんです。


それから、僕自身が台湾でデビューしているということもあり、去年の4月に行ったコンサートでは、” Futa-tu, Hito-tu フタツ、ヒトツ”という曲を中国語の歌詞をつけて披露しました。その曲以外にも、”チャイナガール”という曲があるのですが、それは中国大陸をイメージして書き上げたものなのです。


今は日本にいても中国の文化や歴史が身近に感じられる時代になりましたが、やっぱり中国に行かないと手に出来ないものがあると思います。ですから待っているだけではダメで、自分から向かって行ってチャレンジしなければと思っています。


中川晃教


中川晃教

写真提供:(株)ヴォイス・オブ・ジャパン

 

心連心

今回の京劇公演にご出演されることとなったのは、何か特別なきっかけがあったのでしょうか?


中川

もともと京劇に対しては興味を持っていました。これまで歌手として、またミュージカルや舞台俳優としての活動を続けてきた自分に、もう一つ新しい世界を取り入れるとしたら何だろうと考えていた時に、京劇という選択肢が常にありました。


台湾での活動中、中国の伝統衣装を作っているデザイナーさんと仲良くなったこともその理由の一つですし、その後台湾から日本へ戻った時に、”スーパーモンキー~西遊記~”と言う舞台に出演しないかと言う話を頂いて、新潮劇院の張春祥さんや今回偽の孫悟空を演じられた馬征宏さんに出会いました。残念ながらその時の企画は実現せず幻の舞台になってしまいましたが、今回の”孫悟空vs孫悟空”で再度声をかけて頂いたことで、出演する運びとなりました。


また、以前歌舞伎俳優の坂東玉三郎さんが中国の昆劇を演じられた舞台「牡丹亭」を拝見したことがありました。昆劇と歌舞伎のコラボレーションにより、伝統的な演目をさらに刺激的で官能的に仕上げ、何と言っても見終わった後に「素晴らしい!」とため息をついてしまうような、説得力のある美しい世界を表現されていたのです。坂東さんが昆劇の世界をご自身の経験とイマジネーションから新たに再構築されたように、僕は京劇と歌を通して、そこに伝統だけでない新しい何かが自分自身とリンクするのを感じたいと思ったのです。

心連心

京劇の世界は、中川さんが今までご経験されたミュージカルや日本の演劇の世界とは全く違ったのではないでしょうか? また、その中から得たものはありましたか?


中川

新潮劇院の張さんからは「京劇へ新しいものを吹き込んで欲しい」と言われていました。僕はその言葉の意味を、伝統の基礎を崩すのではなく、そこを体に叩き込んだところからさらに僕に何が出来るのかを期待されているのだと理解したのです。元来京劇の歌は口から口、耳から耳へと伝わって受け継がれたもので、今回の稽古でも譜面に関して言えば、私達が通常用いるようなものはありません。それぞれの京劇俳優が長年の稽古の上で、その体に染みこませてきたものなんですね。ですから僕は、その彼らの中にしっかりと根付いている伝統を理解するところからスタートしなければなりませんでした。

中川晃教

 

実際には、言葉も分からないし歌も僕にとっては聞き慣れないフレーズばかりで、当然戸惑ったわけですが、そんな時にも共演の馬さんが「大丈夫、焦らないで」といつも声をかけてくださいました。逆に僕も、出演者の方々に自分から声をかけるよう心がけて、皆の士気を高めようと努めました。というのも、舞台の上ではお互いの技術やプロ意識だけをぶつけ合うだけでは新しいものは生まれないからです。相手を受け入れる信頼感、相手の持っているものをやってみようと思えるリスペクトの気持ちが凄く大切なことなのです。その信頼関係があれば、稽古で不可能だと思った難しい挑戦も、舞台上では実現できるんです。


公演が終わってカーテンコールが下りたときに、舞台上で馬さんに「ありがとう!」と彼の手を握り締めて伝えました。すると彼は「僕はずっと君が途中で断念しちゃうんじゃないか、あきらめてしまうんじゃないかと心配だった。でもあなたにはプロ意識があったからここまで来れた。素晴らしい!」と答えてくれました。それこそ、僕が今回の京劇のステージの上で確かなものを得た瞬間だったと思います。

 

心連心

京劇の複雑な節回しを中国語で堂々と披露されて、改めて中川さんの歌唱力の高さを感じることが出来ました。


中川

ステージや舞台の上で、お客さんや共演者さんから受けるエネルギーに対して瞬発力をもって自分の声を返す、その時に自分でも思いもよらない感情が飛び出す瞬間があります。僕は歌う上で、自分の経験から生まれた感情だけにとどまらず、経験が無くても感じあえる瞬間をとても大切にしているのです。


今回は中国語の歌ということで、口の形と自分の耳だけを頼りに覚えていくわけですが、そんな限られた条件の中で感情を込めなければいけません。でもやっぱり、そこが歌の特権だと思うのですけれど、ちゃんと音の中にあるんですよ。例えば三蔵法師が死体の山、血の海を目の前にして「クーアイ(可哀相)」と泣きながら歌うシーンがあるのですが、そのメロディを歌うと、中国語が身についていなくても、その言葉の音の中にその意味が表現されているのを感じ取ることが出来るんです。中国語の音の中には、心の奥にある強さと奥ゆかしさ、その両方が存在するような気がしています。


歌のテクニックの観点から言うと、今回様々な方から京劇を歌う上で、ベルカント唱法という歌のテクニックが重要ではないかと言うことを聞きまして、僕自身もそれを実感しました。僕はデビューまもなくミュージカルを経験したことで、それまで自分のやり方で培ってきた発声以外の歌い方を一つ身に着けてきたわけですが、もう一つマスターするとしたら、ぜひ京劇の歌唱法をマスターしたいと思っています。

中川晃教

写真提供:(株)ヴォイス・オブ・ジャパン




中川晃教
中川晃教

 

心連心

この度京劇を通して日中の架け橋となられた中川さんですが、改めて日本の皆さんに中国文化の魅力を伝えるとしたら、どんなところでしょうか?


中川

はい。まず今回の演目は、西遊記の中でも本物の悟空と偽者の悟空が対決するエピソードを抜粋したものですけれども、ストーリーがとても良いということですね。凄く古い時代に書かれたものなのに、今の時代でも変わらない普遍的なテーマがしっかりと描かれているんです。それは日本人でも中国人でもおそらく分かることで、感覚を通して共感される人もいれば、文化を通して理解される人もいるのだろうと思います。


また、今回の経験で胡弓と言う楽器を初めて深く知ったのですが、ピアノでもギターでもなく、あの楽器でしか引き出すことが出来ない感情や感覚があることも分かりました。胡弓の音とメロディ、そして中国語が一つになって京劇であり、それが中国の文化芸術を形作っているという点に、僕も同じアジア人として強く惹かれるものがありました。

今回、中国人と一緒に稽古をしている最中、中国人と日本人のお互いの得意な部分、苦手な部分がはっきりと分かれました。中国人からは「日本人は何でも細かすぎるんだよ」と思われたり、逆に日本人は「中国人は大雑把過ぎるんだよ」と思っていたりね(笑)でもだからこそ、面白い。だからこそ、その違いは自分の経験として信じられる。今後また文化の違いに直面した時にも「そこが中国のいいところだよね!」と思うことで必ず面白い交流が生まれると思います。


今回本当に大変な舞台を乗り越えることができたからこそ、いつかこの経験が曲やミュージカルのような音楽芝居の中で、自分の創るメロディと言葉にリンクする日が来ると信じています!

 

 

(※1) 新潮劇院・・・中国伝統芸能「京劇」の日本普及を目標に、北京京劇院出身の京劇俳優「張春祥」が1996年に設立した京劇団。

(※2) 孫悟空VS孫悟空・・・中国国家京劇院に所属する唯一の日本人京劇俳優「石山雄太」演じる孫悟空と、中国人京劇俳優「馬征宏」演じる偽孫悟空が一騎打ちを繰り広げる、日中京劇界きっての名優たちによる一大コラボレーション公演。

 
ひきたごう

■中川晃教さん プロフィール

 

2001年にシングル「I WILL GET YOUR KISS」でデビューし、第34回日本有線大賞新人賞を受賞。2003年には、ミュージカル「モーツアルト!」において第57回文化庁芸術祭賞演劇部門新人賞、第10回読売演劇大賞優秀男優賞、杉村春子賞を受賞し、音楽活動と並行して数々のミュージカルに主演。2009年にはNHK大河ドラマ「天地人」に徳川秀忠訳役で出演。その類まれな歌唱力とソングライティング力だけにとどまらず、様々な分野で飽くなき挑戦を続ける姿が強い支持を集め、音楽・演劇の分野で常に第一線を走り続けているアーティスト。2010年7月には地球ゴージャスプロデュース公演Vol.11 『X day』 に出演予定。

 

中川さんの公演情報や詳しいプロフィールはこちら→ 中川晃教 AKINORI NAKAGAWA OFFICIAL SITE


http://akinori.info/



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