心連心Essay


僕がカツ丼を愛する理由

牛丼、天丼、親子丼、鰻丼、海鮮丼…。「丼」(どんぶり)は日本が生んだ世界に誇るべきファーストフードの一つだ。一説によると丼という名前はタイの首都バンコクの西側にあるトンブリに存在した焼物が起源だとのこと。トンブリの陶器は色鮮やかな蓋付きの器で、それが江戸時代に日本に入ってきて「丼」と呼ばれる様になったという。とは言え、タイでは丼料理は普及しなかったようで、日本のような丼物がタイにあるという話は聞いたことがない。
僕は丼物の中では「カツ丼」が一番好きだ。「カツ丼」は日本各地にそれぞれご当地カツ丼が存在し、ソースカツ丼、味噌カツ丼、おろしカツ丼などいろんなバリエーションがある。中でも僕が最も愛するのは一番ポピュラーな玉子とじカツ丼だ。熱々のご飯の上にサクサクとしたキツネ色の衣をまとったトンカツと飴色に煮込まれた玉ネギ、そこにフワリと乗った黄金色の半熟玉子がかもし出すハーモニー…!何とも魅力的ではないか! もともと、僕はそんなに熱烈なカツ丼好きではなかった。ところがこんなにカツ丼を愛さずにはいられなくなってしまったのにはある理由がある。僕とカツ丼とは不思議な縁で結ばれているのだ。
以前、都内にある出版社に勤めていた時のこと。当時、海外でのイベント開催を間近に控え、連日終電で帰る日が続いていた。その日も残業しなければ準備が間に合わず、早目に晩御飯を食べてしまおうとほぼ毎日通っている弁当屋へと買出しに出かけた。オフィスから弁当屋までの距離は50m足らず。いつもの様にまっしぐらに弁当屋に駆け込むはずだったのだが、その日はなぜか突然、足が止まった。無性にカツ丼が食べたくなったのだ。弁当屋に行く20m程手前の定食屋の中に惹きつけられるように足が向いてしまい、気がつけば「カツ丼一つ!」とオヤジに声をかけていた。カツ丼を頼んでから数分後、急に外が騒がしくなってきた。アツアツのカツ丼をホフホフと口にほおばりながら、にぎやかだなあと思っていると、しばらくしてパトカーのサイレン音が近づいてきた。何かあったのかなと箸を止めて店の外に出てみて一瞬息が止まった。僕が行こうと思っていた弁当屋に白い乗用車が見事に突き刺さっているではないか。店は半壊し、グシャリとひしゃげたボディが店から半分顔をのぞかせている。なんてことだ。あの弁当屋に行っていたら突っ込んで来たあの車と店のカウンターとの間で確実にグシャグシャになっていただろう。店には幸い客が入っていなかったので、ドライバーが怪我をした程度で他に人的被害は無かったのだが、いつも弁当が出来るまで座っている椅子が跡形も無く車で押しつぶされているのを目にして血の気が引いていく思いがした。
今もカツ丼を食べる度にその光景を思い出す。そして心の中でカツ丼に手を合わせるのだ。カツ丼よ。僕の命を救ってくれて有難う!



合掌

カツ丼

親子丼

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