山頂からでは山の姿は見えない
 

山西省大同市の農村で緑化協力を始めたのは1992年でしたので、すでに18年目に入っています。私自身、毎年100~120日間、現地に滞在しました。最初はほんとに苦労しました。自然条件が厳しい。その上に歴史問題が深刻で、なかなか理解してもらえませんでした。


でも、苦労が多かった分、信頼できる友人を持てましたし、中国のことをより深く理解できたと思います。たとえば……。


首都北京は大発展中国のシンボルであり、頂点です。通り過ぎるたびにその変貌の規模とスピードに圧倒されます。北京や上海から帰ると東京が田舎に見える、と語る友人もいます。ところが大同からみる後ろ姿の北京は、様相がちがいます。


大同では水不足がきわめて深刻です。黄土丘陵の高所では井戸や湧き水が涸れる村が続出し、飲み水にも困るほどです。映画「古井戸」(原題・老井)は現実世界のことです。


全域の河川から水がなくなりました。大同市の中央部を流れる桑干河を渡るとき、びっくりしました。河底の全面にトウモロコシが植えられ、水の流れる余地がありません。付近の農民は、河に水が流れてくることを期待もしなければ、恐れてもいないのです。たまに水があるときはまっ黒で、橋の上まで刺激臭がただよいます。私は「純度100%の汚水」と呼んでいます。


大小のダムが干上がり、湖底が畑や牧場になっています。大同の市街地で使われる水はその大部分が地下水で、地下水位が急激に低下しています。


広い中国のことですから、このような地方があっても不思議はないでしょう。でも、大同の場合は特別の意味をもっています。大同は北京の水源だからです。先ほどの桑干河は大同を通過して河北省に入り、壷流河、洋河と合流して永定河と名を変えます。永定河をせき止めているのが官庁ダムで、密雲ダムと並んで2つしかない北京の水ガメの1つです。永定河が官庁ダムに流れ込むところも、河川敷の大部分はトウモロコシ畑になり、流れはほとんどありません。


オリンピック開催の前後から、北京市は河北省、内蒙古自治区、山西省などにあるダムの水門をあけ、北京に引水しました。それらの地方にくらべると、北京の水の使い方ははるかに贅沢ですよ。そして、北京の人たちは、そのような現実をほとんど知りません。それはほかの中国の都市と周囲の農村の関係でも同じでしょう。


2年ほど前、私は北京大学と新疆大学で講演し、同じような話をしました。参加した学生から「中国の環境がこれほど深刻だとは思わなかった」「日本人の高見に聞くまで知らなくて、中国人として恥ずかしい」という反響がありました。


私はそれに答えました。山頂に立っているだけでは、その山の姿は見えません。それと同じで、北京にいるだけでは中国のことはわからないし、北京のこともわかりません。北京のことを理解しようと思ったら、大同まできてみてください、と。みなさんも、どうぞ!



■ 緑の地球ネットワーク事務局長 高見邦雄


1948年生まれ。92年「緑の地球ネットワーク」の設立に参加し、94年から事務局長を務める。「緑の地球ネットワーク(GEN)」は、中国山西省大同市の黄土高原で緑化協力を続けているNGO。その活動は高い評価を受け、「国家友誼奨(中国政府)」や「母なる河を守る行動国際合作奨(中華全国青年連合会)」、「明日への環境賞(朝日新聞社)」をはじめとして国内外から幾度も表彰されている。
同団体のホームページ:http://homepage3.nifty.com/gentree/



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