中国を見る、読む、集める


民家の本

中国を見る、読む、集める久しぶりに本の話を。


今回の旅行で書店に行って目についたのが、古い集落や民家についての本がいくつも出ていることだった。


北京の老胡同の本や写真集は、かなり前からたくさんあるし、「老照片」シリーズの成功のせいか、昔の写真を集めた本もいろいろ出ている。各都市単位で昔の写真を集めた本は、北京や上海などからはじまって、地方都市に広がっていっていく傾向が、すでに三年前にもあった。


私は、仕事がら昔の中国をすこしでもビジュアルに知りたいという欲求が強いので、昔の風景を集めた写真集にはずいぶん前から関心を持っていた。そうした本が少なかった頃は、古い写真を見るのには、写真史の本がいちばん役に立つので、本屋へ行けばかならず探していたし、写真の専門誌を購読していたこともある。


今回目に付いたのは、昔の写真ではなく、現在でも古い姿を残している集落や民家の、写真や図面、調査記録などをまとめたシリーズだ。


以前から出ていた民家のシリーズでは、江蘇美術出版社の『老房子』が、モノクロ写真がいい味を出していて、資料集としてより、写真集として魅力的だ。ただし、紙が良すぎて、小さな本なのにやたら重い。今回も何冊か新しい巻を見つけた。前はバラ売りをしていなかったと記憶しているのだが、バラで買えたので、持っていなかった「北京四合院」だけを買って帰った。


そして、新刊で目にとまったのが、河北教育出版社の『中国古村落』というシリーズだった。予告には十冊の名前が挙げられているが、手に入ったのは六冊で、山西、浙江、江西、福建と、各地から選ばれていて、それぞれに歴史や特徴を持った村ばかりだ。たとえば、浙江の諸葛村は、孔明の子孫の村として有名で、祖先を祀った立派な宗祠がある。


図版にしたのは、山西省の「張壁村」の巻だが、この村は、山西省介休県にある農村で、高さ六、七メートルの城壁に囲まれている。城壁マニアの私としては、それだけでうれしい。この本は、著者の陳志華氏の何年間かの調査によって編まれたとのことで、民家や廟の写真や図面だけではなく、人々の日常や民俗行事の写真も、たくさん載せられている。この村にはいろいろな廟がよく残っていて、その記録が詳しく載っているので、仕事の方でも役に立ってくれそうだ。


こうしたシリーズを何種類か目にしたが、以前はあまりなかったような気がする。どれもハンディな本で、豪華本ではないが、写真や図版の質は高い。帰ってから調べたら、日本にもすでに輸入されていたようだが、北京の書店で見るまでは、たくさん出ていることに気がつかなかった。やはり、行かないとわからないことは多い。


このような本がいくつも出版されるのには、一つには「古いもの」が、社会の変化に応じて姿を消しつつあって、それを記録しておこうと考える人がいるからなのはもちろんだが、もう一方で、読者の側にも自分自身の生活に余裕が出て、昔からのものへの関心を持って、それを本で読もうと思う層が社会的に出現してきていることの反映とも言えるだろう。川底村が古い村の雰囲気をよく残していることが話題になって、いつのまにか観光地になってしまっているように、「古いもの」へ、人々の関心が向かいつつあるのだろう。  『中国古村落』が、一冊四十元台と、『老房子』と比べて安価なのも、広い層に関心が拡がっているからだと思う。



森田憲司 一九五〇年、大阪生まれ。
現在、奈良大学史学科教授。
中国近世の社会・文化を専攻する。趣味は、書物・地図をはじめとする中国にかかわるもろもろの収集。


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