
![]()
![]() |
| 地図両塊 |
|
もちろん買う人はほとんどいない。最近、街頭の地図売りが少なくなったというのに、どうなっているのだろうかと思いながら、一度は通り過ぎた。しかし、定価が四元の地図を二元で売っているのだから、どうせ古い地図だろう、古い地図なら持っていない版の可能性がある、二元で遊んでやれと、引き返して一枚買って帰った。 ちょうど王府井書店で一〇月版の「北京交通遊覧図」を買って帰る途中だったので、ホテルの部屋へ入ると、さっそく買ってきた地図をチェックしてみた。すると、道で買った地図も一〇月刊行となっていた。こうなると、なぜ半額なのか、わけがわからない。 二つの地図の奥付を比べてみると、版次が、一方が五七、一方が五八だった。印刷部数も、五七次が九七六〇〇〇一―九九六〇〇〇〇、五八次が九九六〇〇〇一―一〇一一〇〇〇〇で、たしかに連続している。道で買った方の奥付の一〇の字が少しゆがんでいることも気になる。 その晩は、トコトコの編集部のみなさんとの飲み会だったので、この「謎」を話題にしてみた。ニセ物説その他、いろいろ説はあったのだが、誰もよくわからない。私は、はじめは、何か印刷ミスがあって廃棄された物が横流しされたのかと思っていた。しかし、裏側の広告は同じなのだが、周囲の広告がだいぶ違っている。まさに版違いで、キズ物ではなさそうだ。肝心の中身の方はどこか違うのかというと、正直言って、これを見比べるには、私の目は年をとりすぎている。 日本に帰って、持って帰った地図を整理して、また驚いた。以前から手もとにあった九月発行分は五四次で、印刷数も九六六〇〇〇までだから、一〇月分と、次数で三次、部数では三〇万も違っている。いったいどうなっているのだろう。通算してみると、九月から一〇月までの間だけで、少なくとも五次、部数で七一万部も刷られていることになる。なんともすごい数だ。 そして、この数字でもわかるように、通算の印刷部数は一千万部をこえている。これは、もはやギネスものだと思う。ただし、地図に書かれているこの数字がどこまでアテになるかが問題だが。 結論はと言えば、まったく謎は解けていない。ただし、私に限っていえば、二元、つまり二七円くらいで、このコラム一回分のネタを仕入れることができたことになるから、大当たりだった。今回はそんなにうろうろしたわけではないので、はっきりとは言えないが、「地図両塊」は、王府井の角でしか見かけなかった。これも不思議だ。サダムトランプはあちこちで見かけたのだが、買い忘れた。 図版にしたのは、編集部に入手していただいた出たばかりの「北京交通遊覧図」の二〇〇四年新版。表紙も変わっていないし、印刷次数も六〇次で、去年と続いている。まだ手に取ってはいないのだが、一二月に開通したばかりの八通線は、この地図ではどうなっているのだろう。 森田憲司 一九五〇年、大阪生まれ。
現在、奈良大学史学科教授。 中国近世の社会・文化を専攻する。趣味は、書物・地図をはじめとする中国にかかわるもろもろの収集。 |