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| 500円=30元の本 |
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今回書こうとしていることは、北京在住の一般の方にはあまり興味をお持ちいただけない話題かもしれないが、私たちの仲間内では時々出てくる話だ。話題にしたいことは、2つある。 まず、写真を見ていただきたい。これは、民国28年、つまり1939年の3月に出版された、『福建市舶提挙司志』という本なのだが、まずこの本の説明をしておこう。 福建市舶提挙司というのは、福建の福州に明代に置かれた、海上交通、貿易などを管轄する役所で、起源は唐代にさかのぼるけれど、明代の福建市舶提挙司は、おもに琉球との交渉を担当していた。この本にはその福建市舶提挙司の歴史と現状が書かれている。もう1枚の写真は市舶提挙司の見取り図で、琉球施設を接待した柔遠駅の名前も見える。 この本が編まれたのは、明の嘉靖34年(1555)のことだった。私が買った本は、それを民国28年に活字印刷にして出版した本だ。その当時中国では見つからず、日本の、おそらくは沖縄にあった本をもとにして刊行された。 話題の1つ目は、この本をついこの間、神戸の新開地の地下街にある古書店で買ったということだ。神戸は中国との交流が長いせいか、なぜこんな中国の本がここにころがっているの、ということが、年に1回くらいある。私は横浜の古本屋さんのことは知らないが。やはりそうなのだろうか。また機会があれば書くが、孫文のサポーターだった呉錦堂の巨冊、『続刻杜白両胡全書』も、3500円で神戸の元町の古本屋で買ったし(今は須磨の孫文記念館に展示)、最近では戦前の済南城内の詳しい地図を買った。東京以外では、神戸は中国関係の珍しい本探しの穴場と言える。
ところで、写真は小さいからわからないかもしれないが、表紙の右下の方に500円というシールがはってある。この値段で私は買った。2つ目の話題にしたいのは、この500円という値段だ。家に帰ってから、ネットで検索すると、東京の某専門店では4800円がついていた。これはいささか極端な値段だが、私の買った500円、つまり30元という値段は高いか安いか。ただし、日本での話ではなく、北京の相場としてだ。 この本は、地図を入れても55葉の線装の小型本で、木版本ではなく近代活字の印刷だ。その一方で、この本が1冊で完結しているということも、価格には影響しよう。全10冊のうちの1冊だけのバラ本というのでは、商品として話にならない。この本の場合は、調べた限りでは、民国28年以降、沖縄で『明代琉球史料集成』にかなりの部分が収録された以外は再版がされていないから、その点でも価値はあると言える。 秋の琉璃廠の古書市で、平台に線装本(多くは木版)が積み上げられて、値段はどれでも1元だったのはどれほど前のことだろう。もちろん、ほとんどは端本で、商品として箸にも棒にもかからないものだったが、中には史料価値のある本もあった。本の種類にもよるが、昨今は潘家園でも、木版本というだけで200、300をつけているのは当たり前、もちろん潘家園のことだから、その値段がそのまま売値になるわけではないが、かろうじて本の姿をとどめている、といったものも多い。とすると、この本が、北京の市場に出たら、いくらになるだろうか。資料性や、数の少なさから考えて、まともな古書店に出れば、どうも500円=30元では済みそうにはない。 私は別に掘り出し物の自慢をしようというわけではない。この30年ほど北京の本屋を見てきた経験から言うと、中国の昔の本、とくに線装本の価格の変動には、激しいものがあり、日中の古書価は逆転しつつある。いや、物価や給与水準に差があることを考えると、すでに逆転してしてしまっているのではないかと考えているのだ。 森田憲司 一九五〇年、大阪生まれ。
現在、奈良大学史学科教授。 中国近世の社会・文化を専攻する。趣味は、書物・地図をはじめとする中国にかかわるもろもろの収集。 |