気取らない街 吉祥寺は、朋広を優しく迎える


渋谷 朋広 (25) 東京清瀬市出身


朋広の目線は鋭い。強い光を放つその目は、野生に生きる動物のように迷いがない。髪は金髪で、灼けた肌にモノトーンの服。バイクにまたがり東京の街を滑走する男、それが朋広だ。一度自分の目線に捕らえたものは決して逃さない、朋広はそんな生命力に満ち溢れている。



彼が選んだ街は、吉祥寺。

都心から西に約20キロ離れたところに位置するこの街には、大型商業施設や多種多彩な店舗が所狭しと軒を連ね、傍には吉祥寺の代名詞ともいえる井の頭恩賜公園がある。 またこの街は古くから文化人や富裕層を惹きつけて止まず、各種の「住みたい街ランキング」でも常に1、2位に選出され、幅広い年齢層に人気のある街だ。



学生の頃によく吉祥寺で遊んだという朋広は、この日久しぶりにこの街に訪れたそうだ。井の頭公園を歩けばむかし彼女と歩いた時のことを思い出すし、友達と将来を語り合ったのもこの街だという。

「オレ、東京生まれって言っても、子供の頃はオレんち農家だったんスよ。夏に暑くて部屋の窓を空けたら、隣の家の牛のにおいがすごくて。だからかな、大きな街だけど気取ってない吉祥寺が落ち着くんスよね」。

たしかに吉祥寺は都心に比べ、みんなのんびりしているように見える。


 

彼は野菜を作っていたおばあちゃんが大好きだったが、中学生の頃に亡くなってしまった。誰にも相談せずに一人で物事を解決するという朋広にとって、おばあちゃんが思春期に他界した事は、一人っ子の彼に影響を与えているのかもしれない。


彼は高校時代に美容師への道を胸に決めた。だが、銀行に勤める彼の父親は猛反対した。

「大学に行って欲しいって言われました。そしてちゃんと安定した仕事に就いてもらいたいって」。

彼は諦めなかった。

最終的には、「ちゃんとやる気があるんだったら」と認めてくれたそうだ。


彼は夢見た美容師となり、現在3年半になる。しかし今はまだスタイリストではなくアシスタントで、美容室の激戦区にある青山のお店に通い、毎日修行している。

彼の勤める美容室は他の美容室に比べ、とりわけ上下関係が厳しい。社会の厳しさ、美容師としてのあり方などはこの店の先輩から叩き込まれてきた。

お客さんは全てスタイリストである先輩たちのお客さんであるし、アシスタントの自分が失敗するわけにはいかない。この店では仕事ができないとクビになってしまう。

店に入りたての頃は、あまりの厳しさにトイレで泣いたこともあるという程だ。

だが朋広は、厳しくあることは嫌いではないという。

「この店でやってきたことは全部得意っスよ。これだけ厳しい店だから、今のお店でスタイリストになっちゃえばどこに行っても大丈夫だと思う」。

彼の言葉には、美容師としてトップになる、という決意が感じられる。



スタイリストになるまでの間、細分化された技術を一つずつ会得していく。彼が今取り組んでいるのはショートヘアのパーマだ。夜、店が終わったあと、来てもらったカットモデルのヘアを実際に仕上げ、店の先輩たちに見てもらう。なかなかOKはもらえない。

こうして毎日毎日それを繰り返し、任せてもらえる技術を増やしてゆくのだ。

カットモデルをやってくれる人も自分で探している。店が終わってからや、また休みの日に街で声をかけて予約を取るのだが、希望に添う人に出会えるには何時間もかかるそうだ。

店にでれば忙しく、昼食をゆっくり食べる時間もないまま一日を過ごし、帰宅はいつも夜中。完全にオフの日は月に2日だという。

「こんなの普通っス。同世代のヤツラみんな頑張ってるから。負けたくないし」。

朋広の同世代の多くは、もうすでにスタイリストになっているそうだ。店によって基準は違うが、レベルの高い彼の店は下積み期間が長く、スタイリストになるのも簡単ではない。平均で6年かかる。先はまだ長い。

ハイレベルな店で働く朋広だが、実は内心、焦りも感じているのだ。



「本当だったら、今すぐにでもニューヨークに行きたい」。

表現することよりも稼げる美容師になりたいという彼は、異文化が混ざり合うNYで20代の内に経験を積みたいという。それはNYに対する憧れというより、もっと現実的に将来を見据えているからこその想いだ。

「どうせ行くならただ見に行くんじゃなくて、仕事しに行きたい」。

流行の最先端NYでも、日本人のカット技術はレベルが高いと評判だそうだ。

だからこそ、彼は今の美容室で早くスタイリストになれるよう日々頑張っている。

朋広の目が野性的であるのは、生きていくことに貪欲だからに違いない。



暮れていく吉祥寺を後に、彼はバイクにまたがって、明日の自分に向かいまた走っていく。


このコーナーでは東京近郊に生きる若者を通して日本を紹介していきます。


次回も、お楽しみに。



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