浦安に流れる旧江戸川は、雄治の地元の川と同じにおいがする


杉山 雄治 (21) 宮城県石巻市出身


撮影当日の朝、雄治はまだ少し眠たそうな顔で現れた。 ラフに帽子をかぶり、足よりも大きめサイズのブーツを履いている。 低い声で、自分の言うことを確認するようにゆっくりと話す彼は、21才よりももっと大人の男性に見えた。
雄治は都内にある一流ホテルの日本料理店で勤務しているが、私服をまとったその姿はとても和食の世界で修行している人には見えない。彼のそのファッションからは、彼の美意識が見てとれる。


雄治は約1年半前に宮城県から上京してきた。
彼が言うには、おっとりとした人が多いという地元で、彼は兄と妹に挟まれ育った。
子供の頃から学級委員をやったり、バスケに打ち込んだり、成績に関してもやるからには納得がいくまでやらなければ気がすまない性格で、それは今でも変わっていないと言う。


そんな彼は現在、千葉県浦安市から毎日都内に通っている。
浦安市は東京のお隣、千葉県北西部にあり、ディズニーランドがあることで知られている。都心へのアクセスも良いので、雄治のようにここから都内に通う人も多い。
今回は住宅地や、駅付近、旧江戸川の辺りの古い町並みで撮影した。


雄治は旧江戸川のほとりを歩くと、実家の近くを流れる川を思い出すと言う。爽やかなにおいが似ているのだそうだ。
「僕んち、川の河口付近にあるんですけど、僕、海が好きで…」
小学生のころから料理が好きだった雄治は、中学校に入ると自転車に乗って近くの海に行き、こちや、カレイなどを釣って、父の晩酌のためにさばいていたと言う。
大学に行く事を勧めた両親を「大学に行ったとしても、料理人になると思うよ」と説得し、1年間の料理学校へ進学、卒業と同時に今の料理店に入社し、現在勤続2年目だ。
「仕事、楽しいっすよ。好きな事なんで。キツイけれど、本当に楽しい。雰囲気も良いし。面倒見てくれる先輩もいるし」
同期が仕事の大変さから辞めて行くという中で、雄治の口からこぼれる仕事に対する言葉は、料理が本当に好きなのだという想いそのものだ。
「スーパーに行っても、ぐるぐる回って、調味料だけで1時間くらい見てられます。僕、和食やってますけど、中華の調味料、甜麺醤、豆板醤、トウチージャンとか、辛いのが好きなんですよね」


 

料理学校時代には、和食、中華、洋食、韓国料理と一通り勉強したが、雄治は和食の道に進む事を決意した。
「和食の繊細なところが好きです。それに家で作るなら、和食の方がいいかなって。帰った時には、家族に作ってあげたいし。おいしいもの食べさせんの、好きなんです」


彼はその料理学校時代に「グルメピック」という、大きな調理技術コンクールへの出場生徒に選ばれた。1年生で選ばれたのは、これまでで彼が初めてだった。
授業が終わりみんなが帰ったあと、先生と2人で特訓をした。卵焼きを焼き、里芋をむき、苦手だった桂剥きなどの調理技術の訓練を3〜4ヶ月に渡り、毎晩11時くらいまでやった。
準備を万端に迎えたはずのコンクール、当日彼は大失敗をしてしまった。卵焼きを焦がしてしまったのだ。
「今思ってもすんげー悔しい。せっかく何ヶ月も努力して、これかーって、悔やみきれない。誰のせいにもできないですもん。あれは、だいぶ心が折れました」
この時の失敗が、「中途半端で終わりたくない」という彼を今も奮い立たせているのかもしれない。



現在入社して2年目の彼だが、1年目は職場でも悔しい思いをした事もあり、泣くこともあったと言う。
「でも我慢しねーと。かっこ悪いまま、終わりたくないんで」
雄治のゆっくりと話すさまは、何事も一つ一つ確実に克服してきた彼の「やればできる」という強い意志の表れに違いない。


日暮れ前、旧江戸川で帰路につく釣り人たちと何人もすれ違う。雄治の顔に夕方の光が当たっている。
実は今朝眠たそうな顔をして現れたのは、前日に中学時代からの友人たちと飲み明かしたからだと言う。
地元、宮城の友人たち8人は上京していて、たまに会っては近況報告をし合うのだそうだ。
「みんながいるから淋しくないね」とたずねたわたしの問いに、「いや、一人でもやっていけますよ」と笑顔で答えた雄治だが、やはり、気のおけない友人が近くにいることは力になることだろう。



こうして今日も暮れていく東京に真っ赤な夕日が射している。
「また明日」子供の頃から友達に言い続けてきたこの言葉を、今は自分のためにもつぶやく。
何事も何かを成し遂げようとすることは決して簡単ではないが、充実した雄治の日々が彼をどう成長させていくのか楽しみだ。





このコーナーでは東京近郊に生きる若者を通して日本を紹介していきます。


次回も、お楽しみに。




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