三軒茶屋の裏路地で、沙樹と母と兄、親子3人で営むカフェはオープンした


杉岡 沙樹 -Saki Sugioka- (26) 神奈川県出身


「こんなにやりがいのある仕事って、なかなかないですよ」
天井の高い、コンクリート打ちっ放しのカフェの奥にあるソファに座りながら沙樹は言った。
ここは、沙樹の母と兄との3人で営む「Jam Cafe」だ。
昨年の5月にオープンしたばかりのここは、何事にも行動力のある母が「カフェをひらく!」と、突然言い始めたことから始まった。
そんな話に乗ったのは、ちょうどNYから帰国してきたばかりの兄と、そして沙樹だった。
3人は計画し始めてからわずか1年足らずでこの店をオープンさせたという。
思いもよらない準備が限りなくあったが、妥協せず1つ1つ決めていったと沙樹は当時を振り返る。


彼女たちがまず決めたのは、どこに店を出すかということ。
「仕事を頑張っている若い人達に安全で美味しいものを」という母の想いと、沙樹の強い希望により、この街、三軒茶屋に店をかまえることになった。
「さんちゃ、って、ふっと落ち着ける場所。それに、みんなが自分の好きなスタイルで生きてる感じがするんですよね」

 

三軒茶屋は渋谷にも下北沢にも自転車で15分程度の場所にある。街の中心にはランドマークのように高層ビルがあり、そこには劇場も入っている。周りには古い街並の商店街がぐるりと囲み、安い店や、小さいけれどこだわりをもってやっている店がたくさんある。
ビルの3FにあるJam Cafeの入り口からは、そんな三軒茶屋の街の屋根の連なりが見渡せる。


今は家族でこの街に店を持った沙樹だが、大学生時代は外国旅行ばかりしていた。特に女友人達とバックパッカーとして、オーストリア、チェコ、スロベニア、クロアチア、ギリシャ、トルコ、スペインを旅行したことが印象に残っているようだ。


大学卒業後に選んだ道は希望通りアパレル会社への就職だった。職種は営業職。大好きなファッションの世界で、周りの人にも恵まれ、充実した日々を過ごしていたという。



ところが勤務して3年目になる頃、「一生この仕事をやっていくわけじゃないだろうな」と思い始めた。
会社という、組織にとって必要な人になることを目標にしていた沙樹は、仕事を一生懸命やるあまり、好きなはずの映画を見なくなり、音楽やアートからもいつの間にか遠ざかっていた。
沙樹は組織のために仕事をするのではなく、自分で何かをつくりあげる仕事、自分じゃなきゃダメな仕事、心からそう思えることをやりたいと考えた。
がしかし、その「何か」が、分からなかった。
そんな時に母の「カフェを始める」という突然の提案。迷ったが沙樹は、きっと「何か」が見つかると直感し、会社を辞めた。



カフェがオープンして約10ヶ月、最近ではお客さんも増えてきた。
Jam Cafeは、アメリカに住んでいた兄のアイデアでWifiを入れ、電源のサービスもしている。
健康的な食事、落ち着いた空間、なにより家族が醸し出すあったかさがあり、客層も幅広い。まだまだ軌道に乗ったとは言えないが、なんとなく個性的なカフェとして認知されてきたようだ。


ゆったりとした午後、窓からの光が当たる沙樹の耳には、大きめだけれど華奢なピアスが揺れている。
聞くと自分で作っているのだと言う。お店でも売り始めたそのピアスの評判は上々だ。
「なんでもわりとパッてできて、でもパッと飽きちゃうみたいなところが、あるかな」
と、笑う彼女だが、いいお店にするため奮闘しているうちに、ある自分に気付いた。
おいしい料理を作るにはどうしたらいいのかと、試行錯誤を繰り返す日々。やればやる程に見えてくる料理の奥の深さと、幅の広さ。
沙樹は料理と出会って、初めて突き詰めていく楽しさを知った。


素材にこだわり有機野菜を使うことで、環境問題にも目を向けるようになったという。
今はまだ有機野菜を使うことは簡単ではないそうだが、それでもまずは自分たちができることから、それを支援したいのだと話してくれた。
もっと野菜の素晴らしさを伝えるため、野菜ソムリエの資格取得にもチャレンジ中だし、これからは有機野菜を作っている農家とのつながりを強め、ここで野菜も売れたらいいな、と彼女の夢は広がるばかりだ。



料理だけではなく、カフェという空間には無限の可能性があると沙樹は思っている。
例えば、壁にもっとアート作品を飾り、時には個展を企画したり、先生を招いてアクセサリーを作るワークショップもやってみたい・・・。
それはお店があるからできること。もっとこの場所を活かしたいのだと話す彼女の笑顔には、迷いのない力強さがある。


もちろん慣れないことばかりで、苦手な事もやらなくてはいけない。
でも「なんでも言い合える」安心感と、「ここをよくしたい」という共通の想いをもった家族がいるからこそ、どんどん前に進んでいけるのだろう。


旅が好きな沙樹。今でもどこかに出掛けたいと思うこともあるようだが、このカフェで様々な人と出会うこと自体、旅なのかもしれない。






このコーナーでは東京近郊に生きる若者を通して日本を紹介していきます。


次回も、お楽しみに。




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■ Jam Cafe
住所:東京都世田谷区三軒茶屋2-9-15 TCK三軒茶屋ビル 3F
TEL :03-3411-0320
http://jamcafejp.exblog.jp/



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